偶像崇拝がカフェ設営の最善手だった話

お陰様で先日大学院を修了しました。てしまです。学生生活は様々な彩りに満ち、色を与えてくれた友人や講師陣には感謝が尽きません。

さて、楽しかった学生生活の中でも特に奇妙で思い出深いコンテンツとして大学祭が私の中で大きな存在として在ります。今回は大学祭にまつわる、私が体験した奇妙な出来事を備忘録として書いていこうかなと思います。

 

私がこの春卒業した広島市立大学の大学祭はアクセスに少し不便な立地やさほど多くない学生数も関係してか、おそらくは他大学と比べるとショボめの規模の学祭だったと思います。客として来ると午前中には全て見て回れてしまう。そのため、学生は「つまんねーから行かね〜笑」と斜に構えた消費者タイプでこの先の人生で何も生み出すことの無い芸術学部に入っても卒業が目標で作品制作にも熱を込めないカスと、「自分で何かして楽しむか」という創作者タイプに自然に分かれてゆくワケです。

 

創作タイプの学生は大多数が自分の専攻を生かしたショップや展示、カフェなどを企画設営します。特に芸術学部ではカフェ展示が人気で、毎年いくつものカフェが乱立し、私自身も修士一年の時には刃牙シリーズのオマージュカフェ、刃牙カフェを企画し大いに大学祭を楽しみました。

 

その芸術学部カフェの中でも一際大所帯で準備に時間を掛けているカフェが、私の友達が企画運営する“ブラザーズカフェ”でした。

ブラザーズカフェ、数年前より学部学年を超えた精鋭部隊で運営されるカフェで、毎年芸術学部棟の一階、棟の正面階段を降りたあたりにブースを出しています。私自身は関わりがありませんでしたが、私も自分の企画したイベントを設営している中で何度も作業中の彼らを横目に見ていました。

 

作業中彼らは何度も

 

「これでいいかな?」

「いや、これだとナツミは認めないだろう」

 

「あの調味料はビンと缶どっちがいいかな?」

「ナツミはビンを選ぶだろう」

 

「テーブルはいくつ必要かな?」

「それよりも、間接照明の方がナツミは重要だと思うだろう」

 

と繰り返し言うのです。

しかしいつもその場に『ナツミ』と呼ばれる人物の影はなく、ただ「ナツミなら…」と語られる情景だけを目にしていました。

 

「ナツミ……?」

 

私はその人物が誰なのかわからないまま、「ナツミなら…」を繰り返しつつ作業を進めて行く彼らを見つめていました。逐一確認を取る事に違和感もありましたが、それでもモリモリと設営が進んでゆくので、ナツミは「王様政治っぽいけど、的確な指示を出す優秀な人物なのだろう」と思っていました。

 

大学祭を数日後に控えた私は後輩と慌ただしく自分のイベントの準備を進めており、気付くと既に終バスの時間はとうに過ぎ、昼とは打って変わって構内は人もまばらで残っている人は皆自分たちと同じく大学祭の準備に追われ残らざるを得なくなった学生だけ。

そんな中で私が後輩と深夜のタバコ休憩をカマすべく芸術学部棟の入り口まで降りると、ブラザーズカフェも例に漏れず灯りが点き作業を続けているようでした。なんとなしに会話を聞くと、「ナツミ、これはここでいい?」と訊ねる友人の声。「ナツミがいる?」と思った私は、後輩と「ナツミを見に行こう」と言い、階段下で設営を続けるブラザーズカフェに気付かれないよう階段上からコッソリ近づきました。ブラザーズカフェでは相変わらず

 

「ナツミ、カレーの味付けはこれでいい?」

「ナツミ、値段は450円でいいかいね?」

「ナツミ」

「ナツミ」

 

作業をするブラザーズカフェの面々は確認のたびに「ナツミ」と一方向を見て言います。

私と私の後輩が「ナツミ」と呼ばれる方向に目をやると、そこには“土でできた人形”が置かれていました。

 

「えっ」とつい声を出したのは私の後輩。

私は固まって動けませんでした。

 

彼らは口々に土でできた雑な人形に向かって

「ナツミ、椅子が出来たよ」

「ナツミ、当日の仕込みはこれでいいかな?」

とやけにぎらぎらした目で話しかけており、その光景はただ異様と言う他ありませんでした。

 

私と後輩はタバコの事など忘れ、悪い夢を見たと自身に言い聞かせるしかなく、その日はお互い何も言わず作業を中断し解散しました。

 

大学祭当日、ブラザーズカフェにはその日だけ雇ったであろう、準備期間中には姿形も無かったハーフのイケメンが「ナツミ」として雇用され、よく目を凝らして見ると店の奥にはあの土人形が佇んでいました。

 

 

 

…………この話は全て本当にあった事です。

広島市立大学で大学祭を行う際、先輩からカフェ設営に誘われた方、くれぐれも気をつけて下さい。

 

日常の中に奇妙な世界は潜んでいます。

 

 

 

 

2019年3月29日______________