ワンチャンのメリット

首の皮一枚だ。

 

 

正しくは首の筋のようなものが一本だけ残ってる感じ。

 

 

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最近、と言っても数ヶ月前のこと、その夜私はサークルの飲み会に参加していた。ほどよくお酒も体内に巡り、少々理知的な判断も欠き始めた頃(普段の私は“金持ちの家の金属製の表札を盗んで売り飛ばし、その金で酒を飲む福岡市の大名あたりに住む浮浪者”ばりの高潔なモラリストなのだが……)、後輩の女の子に私は懇願していた。

 

「ワンチャンお願いします」

 

最低なお願いだった。

ワンチャンとは性行為の受諾を表す言葉で……そう考えてみると“性行為の受諾”自体は神聖なものだと言う事は誰も疑いようのない事で、更に言うならば“性行為の受諾”を神聖で聖書的な言葉だとすると、あの時心からの言葉として“性行為”を“ワンチャン”と再翻訳して提示した私は、聖書をドイツ語で翻訳したルターと同格かそれ以上だったワケですが、ルターばりの神学者である私に対して後輩の女の子は「私に何かメリットがありますか?」と後に島原の乱に発展する当時の幕府が敷設したキリスト教禁令の如く冷静な回答を私に返してきました。当たり前のことだけがその場で起きていました。

私の優秀な脳のシナプスは瞬時に「メリットあるか?ねえだろ、の反語表現=ワンチャン無い」の式を構築し、構築済みデッキとして同じミスを犯さないよう脱童スターターパックとして後輩に配布しようかと考えましたが、その式を認める事は要するにワンチャンの『詰み』であったので、「メリットとは」とメリットの再定義を試みる事により自分への死刑執行の延長を試みたのである。泥の中で。

 

私にしかないその娘に対するメリットを考えてみた結果、もう言い寄らないことが一番のメリットだ、という事は神龍時ナーガの阿含ばりの神速のインパルスで初期段階に判明していましたが、それ以外のメリットを私はここ数ヶ月考えて来ましたので、発表します。

 

「紫陽花の咲く場所を知っている」

 

「共に、ミステリーサークルを作れる」

 

「蛍が飛ぶ川瀬を案内できる」

 

 

 

 

いかがですか。

私としては「共に、」がキモすぎる。という感想くらいしか持ち得ませんでした。

 

その女の子からは更に「私面食いなんで」と遠回しのようでクソ直球なボールを頂き、刃牙で言うところの“園田の弟子の警官がビスケットオリバを投げようとするも、脳裏に絶対に動かないであろう大木に対して自分が背負い投げを掛けている像が過ぎり敗北を確信したシーン”と同じ状態に陥りました。

しかし、またしてもほとんど首無しニックばりの首の皮一枚でなにかを再定義する事で、そのなにかとは何なのかも不明瞭なまま、自我の死から時間稼ぎが出来るのではないかと……努力をするもしないも才能うちやと……

…ほならね、ブラジルの選手そこでワンチャン諦めてますかと……、他人の人生を生きるなと。あえて、あえて後輩の女の子に彼氏がいる事は考えずにおく、あえてワンチャンあっても断って一人で家に帰ってみる。

人生って、あえての連続なんですね。

 

 

________keisuke HONDA

 

 

 

 

 

学びですね。

 

 

 

 

殺して。